僕の星

だまし討ち

 蝉時雨も賑やかな8月はじめの午後。
 里奈はエアコンの効いた部屋で寝そべり、歴史小説を読みふけっていた。

「あれっ、電話だ。誰からだろ」

 本を置いてスマートフォンを取ると、発信者を確かめる。
 清川律子だった。

 3年になってクラスが分かれ、疎遠になっている。
 珍しいなと思いながら応答した。

「もしもし?」
『里奈、お久しぶり』
「りっちゃん。本当に久々だね~、元気だった?」

 里奈はベッドから起きると、窓の外に顔を向けた。
 真夏の空に、積乱雲が雄々しく立ち上がっている。今日も外は滅茶苦茶暑そうだ。

『あのさ。今、忙しいかな』

 相手を気遣う口調は相変わらずだ。里奈は微笑むと、律子を促した。

「ううん、全然。暇してたよ。どしたの?」
『実はね、ちょっと出てきてほしいんだけど。もし時間があったらで、いいんだけど』

 随分と遠慮した言い方だ。
 里奈はスマホを握りなおすと、改まった声で訊いた。

「何かあったの?」
『……ちょっとね、相談があるんだ』
「私に?」
『うん。里奈に話があって……』

 小さな声の後ろはざわついている。
 外からかけているのだろう。でも、一体どこから?

 沈黙してしまった律子に、里奈は普通ではない空気を感じた。
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