こんな私が、恋したみたいです。
28.
びしょびしょに濡れたりっくんが、私の目の前に立ってる。



どうしよう、なんて言おう。



「…りっちゃん、ごめんね」



「…え?」



なんで、りっくんが謝るの?




「俺が、悪かったと思う」



「…なんで?」



私の目の前に、りっくんも座った。



「りっちゃんが辛いってこと知ってんのに、りっちゃんが帰るって言った時、なんも言わないで、なんもしなかったから」



「それは、私が勝手に八つ当たりみたいにしちゃったから…」



「ううん」



りっくんが首を振ったら、水滴が飛んできた。




「仕方ないよ。辛いんだもん。それなのに、頑張ってるんだもん。八つ当たりでもなんでも、したくなっちゃうよ」



「…うん」



そうだ。



りっくんが、優しくしてくれるから、許してくれるって、そう思っちゃうんだ。



だから、八つ当たり、しちゃうんだ。



「…りっくん」



「ん?」



謝らないと。りっくんが悪いんじゃないんだから。



「ごめんね。なんも言わないで帰って」



「平気だよ」



そんなに、びしょ濡れのくせに。



「適当に店でたのはいいんだけどね、どこに駅あるのかさっぱりわかんなくってね」




「うん」



1人で、駅着くかなって、心配だったんだ。



「適当に歩いてたら着くかなーって思ってたら、なんか雨降ってきてね」



心細かったんだ。



「もー、死んじゃうかと思った」



夏なのに、寒くて寒くて。



道もわかんなくて、人もいなくて。



まあ、迷子になってしばらくどっかに行くのもいいかもしれないなんて、思ってたとこだった。



「バカ。知らない道ほっつき歩いて、駅着くわけないじゃん」



「…ごめん」



だけど、りっくんは頭を撫でてくれた。




冷たい手。だけど、あったかくて、大好きな手。



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