リアルな恋は落ち着かない
2.
それから数日過ぎた金曜日。

18時を少しまわった頃のことだった。

私は阿部課長から、緊急の書類作成を頼まれた。

「こんな時間にごめんね。月曜日までに作っとけって、さっき部長に言われてさ。他のみんなは自分の仕事でいっぱいいっぱいみたいだから」

「いえ。大丈夫です。ちょうど私は落ち着いているので」

「ありがとう。助かるよ」


(ヘヘ・・・)


阿部課長に「助かる」なんて言われたら、仕事がいくら増えようとも、役得だって思ってしまう。


(なんて・・・ほんとに、ちょっとだけ!!)


と、心の中で、自分や光之助に必死で言い訳してしまう。

けれど、課長の力になれるのは、どうしても嬉しい気持ちを隠せなかった。


(これもできるだけ早く終わらせて・・・『できる子だ』って思われたい)


そんなことを考えながら、私はカタカタとキーボードを打つ手を進める。

けれど頼まれた時間がそもそも遅い時間だったし、結構量もあったので、なんだかんだと仕事が終わったのは22時を過ぎた頃のことだった。


(ふうー・・・終わった!結構かかっちゃったな)


書類の束を机の上で整えて、ほっと安堵の息を漏らした。

すると、仕事が終わったことに気がついたのか、阿部課長が私に声をかけてくれた。

「悪かったね。遅くまで付き合わせて」
 
「いえ。今日中に終わって良かったです」

気づいたら、いっぱいいっぱいだったはずのみんなは、すでに仕事を終えていて、いつの間にか帰っていた。
 
フロアには、私と課長の二人だけ。
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