イケメン伯爵の契約結婚事情
1.噂の令嬢



 女の務めとは、家を守り夫を立てること。
部屋にこもってお裁縫をし、子供の面倒を見ながら夫の帰りを待つ。
晩餐会があれば笑顔を振りまき、夫を立てる美しき花となれ。




耳にタコができるほど聞かされた言葉を思い出し、エミーリアは苦虫をかみつぶした。


「……いつの時代の話よ、懐古主義も大概にしてほしいわ」


エミーリアの雄たけびに、鳥たちが一斉に飛び立った。


新緑が美しい季節、動物たちは姿はださずもそこここに気配を見せ、差し込んでくる木漏れ日は一瞬たりとも同じ形をしていない。まるで、山全体が生き物のように感じられるほど、躍動感に満ちている。

体のラインがくっきりわかる、少しきつめの乗馬服に身を包んだエミーリアは、美しい黒鹿毛の馬の背に乗り、細い山道を走りながら毒ついていた。



「お嬢様、聞こえてますよ」


後ろから黒毛の馬でついてくる若者は、彼女の従者のトマスだ。
固いダークブラウンの髪は、どれほど手入れしても落ち着かず、つんつんと立っている。
がっちりした体格とは裏腹に、顔は優しげで、心配そうな顔で前を行く主人を追っている。


エミーリアが馬を止めると、彼も付き従うように半馬身後ろで止まった。

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