もう一度君に会えたなら
不思議な悲しい花
 わたしの視界に桃色の無数の花が飛び込んできた。わたしの心臓がどくりとわしづかみにされたように大きく震えた。笑い声が頭の奥をくすぐり、胸が締め付けられるように苦しくなる。同時に言い知れぬ温かい空気が包み込んだ。

 今年もその花、桜の花が咲く季節がやってきたのだ。
 目頭が熱くなってきて、そのわけを言葉にしたくなる。だが、わたしにはその理由を知らない。
 そのやりきれない気持ちを抑え込むために、そっと唇を噛んだ。

 桜の花を見ると、昔から不思議な感情が沸き起こる。
 幼いころに何か桜の花に関して、あったわけではない。だが、なぜか毎年、桜の花を見るたびに心がざわつく。何か大事なものを忘れているような……。

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