もう一度君に会えたなら
つながった記憶
 わたしはメールを送ると、携帯を閉じた。メールの宛先は母親だ。今日は榮子と寄り道をして帰るため、そのことを伝えておいたのだ。

 川本さんのお父さんがわたしたちの前に現れることはなかった。そのため、わたしは日常を取り戻しつつあった。だが、川本さんと学校帰りに近くのお店にぶらりと寄った日、母親から何度も着信がかかってきていて、わたしは気づかなかったのだ。わたしに何かあったのではないかと心配をしていたようだ。その日は友人と買い物をして帰っていたということで話はひと段落ついたが、寄り道をして帰るときは母親にメールを送るのが日課となった。

 そうしたこともあり、川本さんにも数えるほどしか会っていなかった。川本さんに会うためのアリバイ作りは榮子が協力してくれると言うが、どうしても母親に嘘をつくのが忍びなかった。彼もわたしの親が心配していることを察しているようだった。そのため、会うことで余計に気遣わせてしまう気がして、会うのを遠慮してしまい、一週間に一度会えればいいほうというくらいになっていた。そして、二人で休みの日にどこかに遊びに行く約束を果たせないまま、期末テストの時期が訪れようとしていた。

「勉強は進んでいる?」
「まあね」

 母親は川本さんのことを聞いてくることはなかった。お母さんにとっては娘の彼氏よりも、川本という男性のほうが気がかりだったのだろう。だが、彼との付き合いを認めてくれたわけではないだろう。彼と付き合うことで成績が落ちたと思われるのは避けたかった。そのため、わたしは中間テストとは別の動機で勉強をすることにしたのだ。
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