もう一度君に会えたなら
ただ一緒にいたくて
 期末テストが終わり、わたしは顔を伏せた。
 勉強はとりあえずした。だが、あれ以降川本さんに会うことも、メールや電話をすることさえなかった。
 携帯を取り上げられ、新しい携帯を渡された。

 古い携帯は電源自体がきられているようだ。
 学校の登下校が送り迎えされ、わたしは一人で出かけることもできなくなっていた。

「テストはどうだった?」
「できたとは思うよ」

 わたしの頭を榮子が撫でた。

「よく頑張ったね」
「お母さんに付け入るスキを与えないためにもね。川本さんはどうしているんだろう」

 わたしは夢に見ていたものが自分の記憶だと自覚していた。
 あのときの笑顔も悲しみも、幸せな気持ちもいわゆる前世のわたしが抱いていたものだと。

 過去の記憶が戻ったわたしが強く願ったのは、川本さんに会いたいただそれだけだった。
 わたしは川本さんが義高様だとはっきりと自覚していた。

 川本さんは今のわたしの話を聞いたら笑うだろうか。

 積もるわたしの気持ちをどれほど痛みとして感じても、わたしは川本さんの気持ちを分からない。
 向こうは何の脈絡もなく連絡を絶たれた状態だ。わたしのことを嫌いになっていたとしてもおかしくない。

 そう考えると視界が霞んできた。

「大丈夫だよ。川本さんが唯香を嫌いになることなんてないと思う。今日、わたしが会いに行ってみるよ。テスト終わったらバイトに出ているかもしれないでしょう」
「ありがとう」

 榮子は何度かバイト先に行ってくれているようだ。だが、川本さんとはすれ違ってしまい、なかなか会えていないようだ。

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