クラリネット吹きはキスが上手いのかという問題について
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次の市民オーケストラの練習で、麻生くんをチラ見してみた。
相変わらずのパーカーにジーンズ姿。
指揮者の指摘に神妙な顔でいちいちうなづき、楽譜に書き込んでる。真面目だなぁ。

今まで、合奏でクラリネットとか気にしてなかったけど、麻生くんは、かなり上手い。
今回のシェヘラザードでは、ソロがあるんだけど、さらっと吹いちゃう。

まあ、それなりに上手いのは当然といえば当然。

なぜなら、アマオケの管楽器って狭き門なのよ。
一曲当たり2〜3人しか乗れない。
一回の定期演奏会にやる曲は2〜3曲。
団員募集してるオケはほぼない。
新規入団はかなり難しい。

ただ、実力の上にコネがあればチャンスは回ってくる。

麻生くんの場合、妊娠により休団を希望していた女性の出身大学つながりで入団できた。

先輩方が、ソロがあるトップを麻生くんにやらせる(押し付けるのかどうか、そこは不明)くらいだから、クラリネットの中でも上手い。

これが鼻っ柱が強い嫌味な奴だったら周りからの風当たりが強いんだろうけど、そこは草食系男子で得をしたと思う。
見た目も性格も地味だけど、オケ向きでいいんじゃない? いい人材見つかってよかった。ウェルカム!っていうのが既存団員の一致した見解だった。



練習終了後、帰ろうとした時、麻生くんが意を決した表情であたしに近づいてきて、

「あの、先日はありがとうございました……」

と頭を下げてきた。

おっかなびっくり、な感じ。

大丈夫。お姉さん、とってくいませんよ。
まあでも、自分から声をかけるとは、よく頑張った。

「えらい! アフターフォロー、社会人として重要だよ! 合格!」

褒めてあげると、少し顔を赤くした。
わー、かわいい。新鮮〜。


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