クラリネット吹きはキスが上手いのかという問題について
「小川さんは、下のお名前、何ていうんですか?」

と訊かれた。

…………はい?

…………どこからそんな話になるのかな?

「俺のフルネーム知ったんだから、教えてください」

いきなり強気?

「教えてくれたら、礼服新調します」

をわ、そう来たか!
あたしの頭の中で、電卓がたたかれる。
礼服の売上に比べたら、あたしの名前なんて、安いのなんの。

「……アカリ、です」

「どんな字書くんですか?」

「電灯の灯に、里」

麻生くんはにっこり微笑んで、

「灯里さん、演奏会用の礼服、買います」

と言った。


……何じゃこりゃ。
調子狂う。




◇◆◇



そんなこんなで、麻生くんとオケの練習で顔を合わせると、挨拶して、二言三言は話すようになった。


ある日の練習の後。
いつも一緒に帰る友人が休みなので、ひとりで帰ろうとすると。

「灯里さん、お疲れ様でした」

麻生くんに声をかけられた。
いつもの草食系男子の雰囲気にほっとする。

「今日も上手かったね。すごいね」

本当にそう思ったので、伝えると、彼は恥ずかしそうに笑った。
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