笹に願いを
「うん。俺」
「ど、どうしたの」
「心配だから来た」
「え」
「何回か電話したんだけど、おまえ出ないからさ」
「あぁ。スマホ、切ってて・・・ごめん」
「そっか。無事なんだな」
「・・うん」と私は言いながら、「無事」という彼の表現の仕方に、少々イラッときてしまった。

「無事」って・・・もしかしたら天野くんは、私が死んでるか、意識不明に陥ってるとでも思ったわけ?
少なくとも今の私は、手術前に死んでしまうほど、まだ弱ってないわよ!

もう周りの憐れむ声を聞きたくない、せめて今夜くらいは周囲の同情も含めた外界全てを切り離したくて、仕事の帰り道からスマホをオフにしていただけに、天野くんの突然の訪問は、嬉しいというよりも、ハッキリ言って余計なお世話だという気持ちの方が強かった。

その苛立ちを、天野くんにぶつける代わりに、私は何も言わなかった。
彼も何も言わなかった。

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