5.理想の恋人 Tulip

「そうか。じゃあ、もうあの店には立たないのか」

 その日の夜、花名は純正に異動になったことを話した。理由を聞かれなかったのはこれ幸いとひそかに胸をなでおろす。

「はい。だからもう、純正さんとお店で会うことはなくなってしまいました」

「寂しいけど、でもこうして毎日会えるわけだし、俺としては問題ないけどね」

 純正はそう言って、花名を背中から抱きしめる。

風呂上がりの純正からはせっけんのいい香りがした。さらに彼の体温が心地よくて、疲れた体が言えるような気がする。ずっとこのままでいたいけれど、ほんの少し迷惑だ。

「あの、純正さん」

「なに?」

「料理の途中ですし、この状態では……」

「ああ、ごめん。邪魔かもしれないけど、もう少しこのままでいていい?」

 甘えるような口調でそう言われると、離れてくださいとも言えない。それに花名も本音では純正のそばにいたかった。