どうしてほしいの、この僕に
 しかしこれじゃあ従妹の前に不審者以外の何者でもない。いつ職務質問されてもおかしくないと思うのだけど。
 そんなことを考えていたらあっという間に病院についた。
 車から降りると急にドキドキしてきた。
 高木さんが先導してくれるので、私は肩にかけたかばんを脇にぎゅっと挟んで前のめりな姿勢でついていく。
 すれ違う人たちの視線が妙に痛いのは気のせい、そう心の中で言い聞かせた。じゃないと今にも大声で「私は断じて不審者じゃない!」と叫んでしまいそうだった。
 でもこの程度で動揺していたら、変装して病院へ乗り込むことなどできやしない。ま、大胆な変装の必要はなくなったけど、いずれにせよ、もっと堂々としなくては!
 エレベーターの中でほんの少し背筋を伸ばし、ミラーに映る自分をチェックする。
 いや、しかし、どこからどう見てもあやしいでしょう、この格好。
 その証拠に、高木さんは私から顔をそむけて、必死に笑いをかみ殺している。
 そして目的地である病室に足を踏み入れた途端、冷たい声が飛んできた。
「高木さん、見るからにあやしい女を連れてくるとは、どういう嫌がらせですか」
「退屈していたくせに」
「とんでもない。読書がこの上なくはかどって嬉しい悲鳴を上げています」
 悲鳴なんかあげていないくせに、とサングラス越しに優輝を見る。
 実際、ベッドの脇には本が2列タワー状に積み上がっていて、片側はところどころに付箋が挟まっていた。ということは、すでに半分くらいは読了したのか。
 え、まさか1日で?
「そこのあやしい人物は、花粉症?」
 優輝が呆れたように言った。私はサングラスを外し、ベッドの上に横たわる彼をキッと睨みつけた。
「そんなわけないでしょう」
 もっと畳みかけるように文句を言おうとしたところ、高木さんが落ち着かない様子で「俺、ちょっと飲み物買ってくるわ」と出ていった。
 どうやら気をつかってふたりきりにしてくれたらしい。
 私としては居心地悪いこと、この上ないのだけど。
 さて、何から話そうか。とりあえず友広くんのことは言わないでおこう。絶対に機嫌を損ねるとわかっているからね。
 じゃあいきなり高校時代の話をふってみる? うーん、いくらなんでもそれはいきなりすぎるよね。「過去は捨てた」の冷たいひとことで一刀両断されておしまいだな。
 どうしよう。逡巡の末、優輝と目が合う。彼はおもむろに口を開いた。
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