あのオーディションからあっという間にひと月が経った。
 もはやわかりきった結果だけど、書面で正式に不合格が伝えられると、私よりも柚鈴が憤慨したり沈み込んだりしてしばらくは忙しかった。おかげで私はひどく落ち込まなくてすんだから柚鈴には感謝しなければならない。
 柚鈴と私は同い年で、モデルの仕事を始めたのも同じ時期だった。
 ほんわかした外見に似合わない毒舌のせいで敵を作りやすいと柚鈴は言うけれども、売れっ子になった今も私の親友でいてくれるのは、笑えない私の事情のせいなのかも、と思うことがある。
「あれ、柴田さん。こんなところで何しているんですか?」
 どう見ても片付いているとは言えないオフィスの隅にいた私は、突然声をかけられて驚いた。後方から若い男性社員が近づいてきている。向かいのデスクに座る友広和哉(ともひろかずや)だ。
「あ、ちょっとファイルを探しに来て……」
「やっぱりイケメンですよね、守岡優輝は」
「は!? いや、あのね、私は別にこのポスターを見ていたわけじゃ……」
「見入っていましたよ、ずーっと。そっか、守岡がタイプだったんだ。どうりで社内の男性に興味ないわけだ」
 友広くんは私の隣に立って腕組みをした。彼は入社早々、社内の女性陣の間で人気ナンバーワンの地位を獲得していた。実際見上げなければならない長身だし、まだ少年っぽさを残した爽やかな笑顔は、私もたまにドキッとさせられる。
「ん?」
 隣の友広くんをじっと見つめていた私は、不思議そうな視線を向けられ、慌てて前を見た。
 ——うわっ! な、なによ!
 正面に貼られたポスターの中から優輝がこちらを睨んでいる。
 黒いフォーマルスーツ姿でカメラを持ち、こちらへ乗り出すようなポーズを作っているだけなのに、もの言いたげなその表情が視界に入った瞬間から目を離せなくなってしまう。
「ゆう……も、守岡優輝は確かにかっこいいけど、ほら、なんか性格悪そうじゃない?」
 優輝と言いそうになったのは失敗だった。横目で見ると友広くんの表情がさっと変わる。彼は妙に察しのいいところがあって、隙を見せたら尻尾をつかまれそうで怖い。別にやましいことなんか何もないんだけどね。
 ふーん、と相槌ともつかない声を漏らすと、友広くんは私に笑いかけた。
「もう知っているかな? 今、守岡は次のドラマで共演する姫野明日香と噂になっているみたいですよ」