どうしてほしいの、この僕に
 いや、あれはギャップなんてかわいいものじゃない。それに相手によって態度を使い分けているのだから本当にたちが悪い。
 とはいえ、今日は悪態つかれても仕方ないのかも。
「優輝がドラマを降板すると聞きました。明日香さんはそれがすごくショックだったみたいです」
「だけど実際あのけがじゃどうにもならないし、未莉ちゃんにいちゃもんつけるのはお門違いもいいところだよ」
 こんなふうに私を弁護してくれるのは、高木さんが姉の恋人だからなんだよね。お兄さんみたいで頼もしい。お姉ちゃんがいい人とめぐり会えてよかった。
「明日香さんは優輝のことが好きなんですね」
 私がそう言うと、高木さんは驚いたのか大きな声を出した。
「知らなかったの?」
「いや……」
 それを知らなかったわけじゃない。
 でも明日香さんにあんな一面があるとは思わなかった。突きつけられてはじめて知ったのだ。あそこまで彼女を駆り立てるものが何かということを——。
 そして同時に、それが私にはない、ということに気がついてしまった。
 あんなふうに私を駆り立てるものが私の中にはない。
 フロントガラス越しに姉のマンションが見えてきた。急に全身から血の気が引く感覚に襲われる。
「高木さ……、わた、し……具合が」
「未莉ちゃん!?」
 突然視界が閉ざされ、それ以上何も考えることができなくなった。
< 130 / 232 >

この作品をシェア

pagetop