「驚いたでしょう」
「はい」
 それはもう驚いたなんて言葉では足りないほどの衝撃だった。こんなところで過去の自分に対峙するとは!
「どうしてこのポスターだけ残していったのか、私もずっと不思議でね」
 優輝の父親は私を追い越してポスターの前に立つ。
 私自身ですら持っていないポスターだ。自分で言うのもアレだが、かなりのレアな一品であることは間違いない。残念ながら金銭的な価値はないに等しいのだが。
「本当にどうしてこんなポスターだけ残していったんでしょう?」
 あらためて優輝の部屋を見回してみる。
 現在の住みかである姉のマンションには、専用ラックに本やDVDがびっしりと並んでいるのだが、この部屋には本棚すらない。彼がいた名残を伝えてくれるのは古い学習机と小さなステレオセットだけだ。
 この状況からすると、私のポスターだけ片付け忘れたというのはどうにも考えにくい。
 それも人気アイドルならまだいいとして、たった一度ティーン向け雑誌のカバーになった私の顔ですから。レアなだけで、金銭的な価値もないものを捨てずにとっておくなんて、まったく意味がわからない。
「お恥ずかしい話ですが、親子だというのに優輝とはほとんど会話がなくてね。昔から口数の少ない子どもだったので、何を考えているのか今も昔もよくわからない」
 ——わかる! とてもよくわかりますよ、そのお気持ち!!
「ただ、この部屋を見てわかるのは、優輝があなたのファンだったということです」
「え……そ、それは……」
 ——同意しかねますが。いったいどういうことなんでしょう?
 救いを求めるように、優輝の父親を見た。
 すると彼は白いものが混じった髪を撫でつけるようにした後、小さく息を吐いた。
「優輝は中学生のときに母親を亡くし、それ以来私とふたりきりの父子家庭で育ちました」
 唐突な話の始まりに息を呑む。優輝の父親は穏やかな表情のまま静かに続けた。
「妻の死をきっかけに、私と優輝はほとんど口を利かなくなりました。どうやら不甲斐ない父親を軽蔑していたようです」
 会話がなかったから本当のことはわからないのだけど、と優輝の父親は自嘲気味に頬を歪めた。
「親としてはせっかく医学部に入ったのだから医者になればいいのに、と思ったこともあるんです」
「医学部に入った……!?」