撮影の仕事は数年ぶりで、最初はガチガチに緊張したものの、次第に肩の力が抜けスムーズに動けるようになった。そうなると楽しくなってきて、終わるのが残念に感じる。
 そんな自分自身の心の動きに驚きながら、監督の「OK」の声を聞いた。スタッフの皆さんに頭を下げつつ、姉の元へ向かう。
「すごくよかったわよ」
 その言葉で一気に心がほぐれた。姉はいたわるように背中をやさしく撫でてくれる。
 深い安堵と達成感に浸っていると背後から名前を呼ばれた。
「未莉ちゃん、お疲れさま。ちょっといいかな」
 振り返るといつになく表情をこわばらせた西永さんが近づいてきた。
「やり直しですか?」
 姉が私をかばうように前に出た。
「違う違う。撮影はイメージ通り! バッチリだよ。ありがとう」
「こちらこそありがとうございました」
 軽く頭をさげると、頭上で西永さんのせっかちな声がした。
「それで、先日の事故の件で……」
「あら、その件ではすでに過分なお見舞いをいただきましたけど」
 そう。私の足元不注意で起きた照明機材の転倒落下事故に対して、ドラマ制作会社の代表である西永さんよりお詫びと見舞金が届いた、と姉から報告があった。
 しかし彼は「待て」とばかりに両手を私たちのほうへかざす。
「まだ大きな声で話せる内容ではないから、控室に移動しようか」
 姉と私は顔を見合わせたが、結局西永さんの後ろに続いた。

「実は未莉ちゃんにお願いがあるんだ」
「私に、ですか?」
 西永さんは深刻な表情で大きく頷いた。私にあてがわれた控室は6畳ほどの狭い部屋だったので、大人が3人もいると息苦しい。しかも普段は軽い調子の西永さんが重い空気をまとっているのでなおさらだ。
「もったいぶらないで早く言いなさいよ」
 焦れたようすの姉が西永さんを睨みつける。だが思いつめたように握った自分の手を見つめている彼はそれに気がつかない。
「もうご存知だろう。守岡くんはけがでドラマを降板した。その影響でドラマが予定より2話短縮されることになった」
「2話も? それは大変ね」
「そうさ、現場は大混乱。スポンサーからも苦情が殺到。急遽対応を検討した結果、守岡くん主演で2夜連続のスペシャルドラマの製作が決まった」
「え、でも、まだけがが……」
 さすがに黙っていられなくて口を挟むと、西永さんが興奮気味に「そう!」と私を指さした。