どうしてほしいの、この僕に
「守岡くんのけがに配慮して、彼の役は足が不自由な設定なんだ」
 配慮? それは配慮というよりむしろ利用では?
 やり手と呼ばれている西永さんだけど、明らかにやり過ぎだ。抗議しようと急いで言葉を探していると、彼は大きなため息をついた。
「だが守岡くんに断られた」
 即座に姉が失笑する。
「彼も少しは休みたいでしょうに。それでどうするのよ?」
「そこで、だ!」
 西永さんは突然背筋を伸ばし、私に向き直った。
「未莉ちゃん、君が優輝を説得してくれないか」
「え、えええええ!?」
 突飛な提案に驚いた私は目を丸くしたまま固まった。
 どうして私が優輝を説得しなきゃならないんだ。
 その疑問に答えるように西永さんが身を乗り出してきた。
「優輝は未莉ちゃんのことをえらく気に入っている。君の頼みなら耳を貸すはずだ」
「それはないです」
 きっぱりと否定したのに、なぜか西永さんは不敵な笑みを浮かべる。
「未莉ちゃん。僕はね、このスペシャルドラマの相手役に君を推しているんだ」
「……え」
「説得するわ! なんとしてでも守岡くんに『うん』と言わせてみせるわ!」
 勢いよく立ち上がった姉は、両手でガッツポーズを決めた。西永さんもそれに呼応してガッツポーズ。
 いやいや、そこのおふたり。本人の意向を無視して、勝手に合意しないでほしい。
 そりゃ、スペシャルドラマに優輝の相手役で出られたら、ものすごいことですよ! いわゆる大抜擢ですよ!
 だけど優輝にドラマ出演をOKさせるのは、そんなに簡単ではない気がする。
 あなたがこのドラマに出てくれたら、私も女優デビューできるかもしれない——と言ったら考え直してくれるかな?
 うーん。
 そこまで彼が私にぞっこんラブだとは思えませんが。というかぞっこんラブとか寒い言葉がなぜ脳裏に浮かんだのか、私にもわかりませんが。
「未莉ちゃん、このとおり、お願いします。こんなことを頼めるのは君しかいないんだ」
 西永さんが顔の前で手を合わせ私を拝んだ。彼は私がイエスと言うまでその姿勢でいるつもりらしい。
 ふう、と大きく息を吐く。
「わかりました。チャレンジしてみます。でも結果は期待しないでください」
「助かるよ。日本全国で彼を待っている人がいる。それを優輝に伝えてほしい」
「……はい」
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