どうしてほしいの、この僕に
「決してそんなことはありません!」
 私は若干声を震わせながら反論した。そりゃ私ひとりでここに来るのと、優輝と高木さんが一緒にいるのとでは天と地ほどの違いがあるとしても、だからといって全然緊張していないわけではないのだ。
 隣で優輝がクスッと笑う。
「柴田さんとは少し前にオーディションではじめて会ったけど、あのときもなかなか堂々としていましたよ」
「そういうところが気に入ったのですね」
「面白い人だな、と思って。ぜひ一緒に仕事してみたいと思ったところに今回のお話をいただいたんです」
 話している間、優輝はサイティさんにひたと視線を定め、私を顧みることもしない。
 対するサイティさんは背筋をピンと伸ばした姿勢で私たちのほうを見ている。しかし実際の目線がどこにあるのかわからないから不気味だ。
「こうしていると、とてもおとなしそうだけどね」
 ディレクターが私に微笑みかけてきた。表情を迷いつつ小さくなる。こういうとき、うまく返事ができるようにならないと、な。
「ドラマの話をしませんか」
 じれたように髪の毛をいじりながら優輝が強引に話題を変えた。
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