その晩、私はリビングルームのソファをベッド代わりにして眠った。
 私自身は優輝と同じベッドに寝ようと思っていたのだが、高木さんから優輝の病状を聞いた姉が別室で寝るように、とわざわざ電話をかけてきたのだ。もしインフルエンザなら私にも感染する可能性が出てくるし、ドラマの撮影にも支障が出てしまう。
 毛布をかぶったままリビングルームの天井をぼんやりと眺めた。そろそろ起きて朝食の準備をしなくてはいけないのだが、浅い眠りを繰り返したせいか、体が鉛のように重い。
 ——ん? もしかして私も?
 これはまずい。マスクはどこだ。
 慌てて起き上がったところに、人の気配がした。優輝が起きたらしい。
 マスクを装着した私はキッチンへ向かい、朝食の準備をする。
 リビングルームへやって来た優輝は「おはよう」と告げ、テレビをつけた。
「熱は?」
「微熱程度まで下がった。悪かったな、ベッドを占領して」
 優輝は私が寝ていたソファに腰をおろした。熱があるせいか、ぼんやりとテレビをみている。
「いえいえ、優輝のベッドだから当然です。ゆっくり休んで早く元気になってもらわないと困り……」
 と、言いかけてどうして私が困るのだと自問する。
 ——いや、ほら、仕事……そう! 仕事に差し支えるから!!
 心の中で力いっぱい言い訳していると、優輝が私を呼んだ。
「未莉、みろよ」
 テレビ画面には姫野明日香のドアップが映し出されていた。朝の情報番組で彼女が出演しているドラマについて取り上げているらしい。画面の右上には「守岡優輝のピンチヒッターは!?」と文字が出て、若手の俳優が姫野明日香と向き合っている映像が流れてきた。
「あの人が優輝の代役なの?」
 背格好は優輝と似ているが、どこか頼りなく感じられた。線が細い上、見た目のインパクトもないのだ。顔立ちは整っていて、カッコいい部類なのだが、目をそらしたら忘れてしまいそうな気がする。
「未莉的には合格点?」
 優輝は気だるげな表情で意地悪い笑みを見せる。まだ少しつらそうだ。
「難しいところですね」
「へぇ。じゃあ俺は?」
 ——な、何を答えさせるつもりなんだ。
 朝食の支度に熱中するふりをして口を閉ざす。
 しかし優輝はしつこく食い下がってきた。
「俺は合格?」
「そんなこと……気になるの?」
「すげぇ気になるね」
「なんで?」