どうしてほしいの、この僕に
「私、普通じゃないの!」
 言い終わらないうちに、頭ごと引き寄せられた。顔が優輝の胸に押しつけられている。
 涙が優輝のシャツに染み込むのと同時に、ぐちゃぐちゃな醜い感情も溶けて消えていった。
 そうなると急にきまりが悪くなる。
「な、なんだろう。ずっと緊張していたせい?」
「すまない」
 優輝は私の肩に手を置き、神妙な声を出す。
「なぜあやまるの?」
「未莉がターゲットになったのは俺のせいだろうな。しかもこの足じゃ、次に何かあっても助けられないかもしれない」
 ——そんなふうに思ってくれていたんだ。
 仕事ではなく、私の身体を心配していたとわかり、胸の中は幸せな気分でいっぱいになる。なんという現金な私。
「そんなの、気にしていないよ」
「じゃあなんだよ? 顔合わせで緊張した?」
「……うん。スタッフの人たちや他の役者さんを目の前にして急に上手くできなかったらどうしよう、たくさんの人に迷惑かけてしまうって心配になってきて……やっぱり私には無理かも、と」
 本心をごまかそうとすると口数が増えるものらしい。後ろめたさで胸がチクチク痛む。
 頭上で優輝がフッと笑った。
「未莉は本当に自信ないんだな」
「そりゃドラマに出ること自体、はじめてのことだし」
 それにしても自分自身をも演じていて疲れないのだろうか。
 ——というか、今は素の優輝なのかな?
「あの、無理していない?」
「無理?」
「あ、いや、その、演技ってつまり自分ではない他人を演じることでしょ? 当然、素の自分とは違う部分もあるでしょ? しかも視聴者は勝手にドラマの役柄と優輝本人を重ねて見るでしょ?」
 ——あああ、何を口走っているのか、自分でもわからない!
 失敗したと思いながら優輝の顔を見上げると、彼はひどく迷惑そうな表情を私に向けた。
「俺、いつもすげぇ無理してるけど」
「え、今も!?」
 切羽つまった表情に驚いて後ずさりする私に、追いすがるように彼が両腕を伸ばす。松葉杖がダンと音を立てて床に倒れた。
「今も、これまでも、たぶんこれからも」
「な……んで? 私のせい?」
 うぬぼれが過ぎると思ったが、優輝は否定せず、私の肩口に顔を埋め小さくため息を漏らした。
「言っただろ? 未莉は俺を利用して女優になればいいんだよ」
「いや、でも、甘えてばかりというわけは……」
「余計なことは考えるな」
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