玄関のドアを開けると明かりがついていて、優輝が私を待ち構えていた。
 前にもこんなことがあったな、と彼の仏頂面を見て思う。仏頂面なら私も負けていないのだが、今はそんな軽口をたたけそうな雰囲気ではない。
 腕を組んだ状態で壁に片方の肩を預けている優輝は、相変わらずついうっとりと眺めたくなるほどかっこよかった。足も太めのチノパンのおかげで骨折しているようには見えない。
 彼は私の様子を十分に観察し終わると、ようやく口を開いた。
「あんなに楽しみにしていた焼肉、全然食べていなかったな」
「そう? お腹いっぱい食べましたけど」
 靴を脱ぎながら答える。やはり見られていたか。
 お腹は空いていたのだけど、友広くんから言われたことを考えていたら、肉がのどを通らなかったのだ。
「何かあった?」
「別に何も。そういえば西永さんは来ていませんでしたね」
「お子さんがこっちに来ていて、今夜は一緒に食事をすると言っていたな」
 ——え!?
「西永さん、結婚しているの?」
「離婚した元奥さんとの間にお子さんがいるんだ。この春から高校生になるらしい」
「へぇ……」
 離婚はものすごく納得できるとしても、あの人にお子さんがいるとは。
 西永さんの年齢からすればなんの不思議もないのだけど、子連れで歩く姿などまったく想像がつかない。もしそれがお嬢さんだったら、ものすごく若い彼女と間違われそうだ。
 優輝は靴を脱いで立ち止まった私の顔を覗き込む。
「顔色が悪い」
「うん、ちょっと言いにくいんだけど、さっき毎月のアレが来ちゃってね」
 私は手に提げていた袋の中身を見せた。紙袋に入れてもらわなかったので生理用品のパッケージが露骨に顔を出す。
 さすがの優輝もぎょっとしたらしく身を引いた。
「そうか。無理するなよ」
「ありがとう。先にシャワー使うね」
 コートを脱ぎながら、内心ひどく安堵する。
 毎月のアレが来たのは本当のことだ。そろそろだと思ってはいたけど、友広くんに会ったことが引き金になったのかもしれない。
 気分も体調も最悪だ。
 でも友広くんの言葉を反芻してみると、確実なことがひとつある。
 現在のターゲットは、優輝ではなく私なのだ。誰かが私をひどい目に遭わせたいと思っている。前回は失敗したけど、次はたぶん失敗しない。
「私がひどい目に遭えばいいんだ」
 シャワーを浴びながら小声でひとりごちた。