どうしてほしいの、この僕に
 目をうっすら開けて、状況を把握しようと試みる。
「おや、お目覚めですか?」
 視界に入ってきたのは見覚えのある顔だった。
「友広くん?」
「手荒な真似をしてすみません。でもこうするしかなかったんですよ。あのまま制作発表の会場にいたら、未莉さんは壇上で殺されていた」
 急に意識がはっきりした。視界はくっきりと開け、隣のシートに友広くんが座っているのが見えた。私はほぼフラットに倒されたシートの上に横たわっている。
 私が記者会見で殺されると言い放った友広くんは、薄く笑っているものの、その笑顔にはどこか翳りがあった。
「どこに向かっているの?」
 とりあえず今のところ私は生きている。
 友広くんの言い方だと、彼が私を助けてくれたらしいが、この状況は私にとってまだ安心のできるものではない。
「父の別荘へ」
 その言葉で彼の父親が別荘を持てるほどの人物だとわかる。ならば彼も常軌を逸した行動はとらないだろう、と祈るような気持ちで考えた。
「私をどうするつもり?」
「さぁ、どうしたものか。そのきれいなワンピースを剥いで、その辺の山中に置き去りにするのはどうですか?」
「嫌よ」
 間髪入れずに拒否すると、友広くんは片方の頬だけ持ち上げ、悪意に満ちた暗い笑顔で私を見下ろした。
 これが彼の本性なのか、と怯んだ瞬間、彼は自分のケータイを取り出した。
「これで未莉さんとの卑猥な行為の動画を撮って、それをネタに脅すのも楽しいかもしれないですね」
 ——なっ……! 歪んでる!
 冗談じゃない。今すぐ彼から逃げなくては。
 友広くんに対する嫌悪感と危機感で頭がいっぱいになる。
 腕に力を込めて上体を起こそうとすると、友広くんは小さくため息をついて私の肩を押し戻した。
「無茶しないで。何もしませんよ。犯罪者になりたくないのでね」
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