どうしてほしいの、この僕に
「社長よりお電話がありまして、社長もこちらへ向かっているとのことでした。ですが、それより先に高木のおぼっちゃんが到着するだろうと」
「それはそうだろうね」
 友広くんはつまらなさそうに言った。
 ——「高木のおぼっちゃん」って高木さんのこと?
 だとしたら嬉しい。姉と優輝が来てくれるということだ。
 靴を脱いで上がると、大広間へ通された。山荘にふさわしいすっきりとしたデザインの家具に魅せられる。中でも存在感のある暖炉に目が釘づけになった。
 そして驚いたことに、大きなテーブルの上にはサンドイッチなどの軽食が用意されていた。
「お腹が空いているなら食べてください」
「え、いや、でも……」
「毒入りではないから安心していいですよ」
 そこまで慎重になっていたわけではない。でも友広くんの考えていることがまったくわからないから、呑気にサンドイッチをいただく気分ではなかった。
 いったいこれから何を始めるつもりなのか。
 ソファの隅っこに腰かけて、窓の外へ目をやる。もしかしたら暴力を振るわれるのではないかと危惧していたのだが、今のところ友広くんは紳士的にふるまっている——スタンガンを使って私を拉致したことを除けば。
 ——ということは、優輝や私を狙った犯人は友広くんではないのか。
 そう考えるのは早計だと思うものの、私を拘束もせず、姉や優輝が来るのをただ待ち構えている彼に、私たちを陥れる動機を見出すことは難しい気がするのだ。
「友広くんは何者なの?」
 コップを手にして大広間へ戻ってきた友広くんに、思い切って尋ねた。
 彼はお茶のペットボトルを開け、コップに注ぐ。
「難しい質問ですね。では未莉さんは何者ですか?」
 質問返しとはずるい。でも「お前は何者か」と問われて即答するのは、確かに難しい。
「……質問を変えるわ。守岡優輝が怪我をした事故の犯人を知っているんでしょ?」
「ええ」
「私を狙っているのもその人?」
 コップを私の前に置くと、友広くんは暖炉の前に立った。
「未莉さんはもう気がついているはず」
 私はちょうど正面に立つ彼の顔をまじまじと見つめる。
「最初は友広くんが犯人だと思っていたわ」
「それも半分当たっている」
 ——えっ!?
「オーディションの招待状を未莉さんに送ったのは、僕ですから」
 ——うそでしょ!?
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