「俺のほうが困る。未莉が危なっかしくて、見ていられない」
 耳にかかる優輝の吐息がくすぐったい。なぜこんなに近いの? 身を引き気味にしながらこらえるのに精いっぱいで、頭がぼーっとなる。
「じゃあ、見なければいいでしょう」
 やっとのことでそう反撃すると、優輝は私から遠のいてフッと笑った。
「俺にあんな啖呵切ったの、未莉がはじめて」
「それは……すみませんでした」
「一生忘れない」
「え? そこまで根に持つ?」
 見ないようにしていた優輝の横顔を、確かめずにはいられなかった。
 優輝の視線は宙に放たれている。まるで私が隣にいることも忘れたみたいに。彼の意識が別の世界へ行ってしまったように思えて、急に心細くなった。
「優輝?」
「ん?」
「いや、なんでもない」
 頬がカーッと熱くなった。何やっているんだろう、私。
 優輝は私のほうへ向き、真顔で言った。
「俺が戻るまで、ちゃんとここにいろよ」
「……どうして?」
「心配だから」
「なんで?」
 私の手の上に、優輝の大きな手が重ねられる。
「そばにいてほしいって、顔に書いてある」
 ええーっ、ウソでしょ?!
 空いている手で頬をこすると、優輝がプッとふき出した。
「なによ。どうせ優輝は、そうやっていつもかわいそうな女の子を慰めるふりして、口説いているんでしょう。でも私は……!」
「未莉」
 冷静な優輝の声が、私の攻撃の勢いを削いだ。
「証拠は?」
「え?」
「根拠もなく、女の子を口説きまくっているように言われるのは、心外だな。俺のこと、何も知らないくせに」
 そう言われると、私は少しも反論できない。でもそれは優輝も同じで、私のこと何も知らないはず。それとも、もしかして姉から何か聞いている——?
 黙っていると優輝の手がポンポンと私の手の甲を叩いた。
「とりあえず洗濯機の使い方、教える」
「あ、お願いします」
 優輝が先に立ち上がって廊下へ向かう。その背中が頼もしく見えるということは、やっぱり私、寂しいのかな。
 だけど彼の向こうに見え隠れする姉の存在を思うと、寂しさよりも底知れぬ不安な気持ちが湧き上がってくる。
 優輝によれば、姉は男性と一緒にいるらしい。その相手が恋人だとして、じゃあ姉と優輝はどういう関係になるのだろう。
 あれ、これって……。
 どういう関係もなにも……。
 もしかして優輝は……姉の愛人?