どうしてほしいの、この僕に
 私はただの居候で、優輝の役に立っていることがあるとすれば手料理くらいだ。それだって恥ずかしくて人に言えるような腕前じゃない。
「だといいのですが」
「早く行ったほうがいい。アイツ、心配するから」
 高木さんは私を振り返り、笑顔を見せた。感じのいい爽やかな笑みに軽く頭を下げると、私はマンションへ駆け込んだ。

 部屋に戻ると優輝は物憂げな表情を浮かべてはいたけれども、何もなかったようにふるまっていた。私も気にせず、いつもと変わらぬ態度を心がける。
 キッチンを覗くと、食器はきれいに洗ってあった。優輝は私がついでに作った朝食を食べ、皿洗いもしたらしい。少し感動して風呂に入る。
 寝る準備をし、今夜も優輝に促されて寝室へ移動した。
 私は意を決して布団をめくり、そこに正座した。電灯のリモコンを手にした優輝が、私を見て眉をひそめる。
「どうした?」
「あの、少しお話をしたいのですが」
「ふーん。いいけど」
 優輝はリモコンを持ったまま、ふとんにもぐりこんだ。頭を起こすと枕に肘をついて私のほうを向く。
「で、何?」
 面と向かって問われると言い出しにくいけど、言わないまま眠ることはどうしてもできそうにない。大きく息を吸い込んでから一気に言った。
「優輝を脅迫した犯人、私も一緒に探します」
 奇妙な沈黙が寝室を支配した。
 困ったような表情で優輝が私をじっと見つめる。しばらくしてため息と一緒に返答が吐き出された。
「未莉にそういうこと期待していない」
「でも、私にも何かできるかもしれないでしょう。むしろ誰からもノーマークの私なら犯人を見つけられるかも」
「未莉みたいな世間知らずのお嬢さまに何ができるんだよ」
 勝手な決めつけにカッとなった私は前のめりになって反論した。
「ちょっと失礼じゃないですか! 私だって笑いたくても笑えなくなるくらいの苦労はしてきましたけど」
 優輝は起き上がり、ベッドの上であぐらをかいた。
「女優じゃなくて探偵になりたいのか?」
「違います。私は理不尽な脅迫が許せないんです。世間は優輝が有名人だから、そういうことのひとつやふたつは仕方がないと思いがちだけど、それは違うと思う」
「未莉には関係ない」
 冷たく突き放すような優輝のセリフは、私の喉元にぐさりと突き刺さった。そのせいで次の言葉が出てこない。
< 55 / 232 >

この作品をシェア

pagetop