通常より早めの夕食そして片付けまでを終えた私は、そわそわしながらふたり分のお茶をローテーブルに運ぶ。優輝は風呂の準備をしている。手持ちぶさたになり、落ち着かない気分のまま、とりあえずソファに腰をおろした。
 まだ熱いお茶を一口すすったところで、優輝がリビングルームに戻ってきた。彼は私の姿を一瞥するなり、ソファの脇にあるロッキングチェアに座る。
「高木さんが俺のマネージャーをしているのは暇つぶしのためなんだ」
 優輝の第一声がそれだった。私は鳩が豆鉄砲を食ったようにぽかんとする。
 暇つぶし——いったいどういうこと?
 口を半開きにして呆けた顔をしている私を満足そうに見やると、優輝は茶碗に手を伸ばし、それから話を続ける。
「高木さんの実家は都内にいくつもの不動産を所有し、一生金に困ることはない家なんだ。だけどああ見えて高木さんは案外真面目な性格で、一族が経営する事務所を手伝っていた」
 案外とは高木さんには失礼じゃないか、と思いつつ「事務所というのはもしかして」と口を挟む。
「そう、成田プロ。そこで高木さんは紗莉さんに出会った」
「あれ? でも姉は成田プロに所属していたことはないはず」
 何しろ姉が独立して現在のグリーンティを立ち上げるまでは、いわゆる芸能大手の成田プロではなく、モデルを多く抱えた事務所にいたのだ。私も一緒だから間違いない。
 優輝は私から目をそらし、小さくため息をついた。
「当時紗莉さんは……成田プロの人間と親しくしていた」
「親しく?」
「俺の口から言いたくはないが、とある人物の愛人だった、ということだ」
 あ、愛人——!?
 優輝の口ぶりからすると、その「とある人物」って社長とか重役なのでは。
「そう……なんだ」
「紗莉さんの名誉のために言っておくけど、そのときの紗莉さんは幸せそうだったよ」
 へ、へぇ。それはよかったね。でもなんだか胸がむかむかする。あまり想像したくないというか。
 ここはさらっと流そう。
「で、いつの間にか心変わりして、高木さんと付き合うようになったんだね。確かに高木さんはなかなかの男前だもの」
 茶化すように言ってみた。
 でも優輝は険しい表情をし、迷うように視線をさまよわせ、それから私を見た。
「俺がこの世界で仕事をするようになったのは、紗莉さんのおかげなんだ」
「……へ?」