ヤンキー上司との恋はお祭りの夜に
おとぎ話じゃないのね
白い屋根のドーム型の建物が見えてきたのは、谷口の車に乗せられて1時間近く経った頃。



(あれは……)


アルファベットで書かれた『アクアドーム』の文字。
壁がブラックで塗装されてる。
併設された駐車場で車を降りてみると、間違いなく水族館だった。



(やっぱ龍宮だよ)


現実なのにおとぎ話の続き?
この間と言い今と言い、私はまるでウラシマみたい。


(…あっ、でもそうか。ウラシマはこんなキラキラワンピ着ないや)


今日くらいは乙姫みたいな気分でいる?
アガリ症の姫なんて聞いたこともないけど。



「行くぞ」


あんたには待つって言葉はないの?


「はは、はいっ!」


あーあ、情けない。


低めのヒールにしておいて良かった。
谷口の足が速いから追いかけるには丁度いい。



(そもそも、そこも変だ!私は逃げやすいように低いヒールにしたつもりだったのに)


思惑からズレていってる。
これと言うのも全部、この男の押しが強いせいだ。




「今日は大人しいな」


エレベーターで下りながら言われた。


(私は元々静かなんだよ!)


心の中でそう呟き、「そうですか?」と聞き返す。


「そうだろ。この間は結構煩かったぞ」


そう言うあんたもドスを効かせてたじゃん。



「男に裏切られて怒ってたからじゃないの」


もうすっかり傷は癒えたけどね。


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