ヤンキー上司との恋はお祭りの夜に
夢の国へ
谷口と水族館を出たのは午後4時を回った頃だ。

館内に設けられたレストランでランチを食べ、裏口から外へ出てみると海岸線が見渡せていて。
港から少し離れた小島まで行く遊覧船があって、珍しいから乗ってみようと誘われた。



「船に乗るの!?」


入館料もランチ代も私が支払ったのに、この上金を出せと言うのか。


「よろしく」


谷口の涼しい顔を睨みつけて、半ばヤケクソのようにチケットを買い求めた。



(この男、図々しいにも程がある!)


今日限りだと思うからこそガマンするけど、二度と誘うなとキッチリ言って別れよう。



歴史の舞台となった小島は一周しても10分とかからなかった。
松林以外の何もなく、期待外れだった…と谷口は言った。



(あんたが乗ろうと言ったのにそれ言う!?)


あれこれと言いたいことをガマンしたまま水族館の中へ再入場した。
そこでおみやげ物を眺めて外へ出たのが午後4時。



「どこへ行く」


前を歩く谷口が振り返った。


(帰る!)


心で思っても口には出しきらない。


「どこでもいい」

地面を見ながら答えた。
お金のかからない場所ならどこでもいい気がしてくる。


「疲れたのか?」


先を行く人の足が戻る。


「ううん」


館内も船内も涼しかった。
イルカショーでは庇ってもらったから服も濡れずに済んだ。

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