空を祈る紙ヒコーキ
失い、欠けたもの

 初めてなのにどこか懐かしい。空の腕に抱かれ、緊張と安堵、喜びと不安、様々な想いが混ざり合っていた。恥ずかしいから離れたいのにこのままでいたい。そう思う自分が自分ではないみたいだった。

「いきなりごめんな……」

 抱きしめていた体をすぐに離し、空は私を見つめた。その目には激しい動揺の色が見て取れた。空自身こんなことをするつもりはなかったのかもしれない。とはいえ私も何て言ったら正しいのか分からずうつむくことしかできなかった。

「涼に好きな人ができたんだと思ったら嫉妬した」

「それって……」

「部室のそばで男子と話してるのを見かけてそのたびモヤモヤしてた……」

 元々人付き合いが苦手な私は女子とすらあまり絡まなかったけどバンド活動で目立つようになってから変わった。私自身は変化したように感じないけど周りはそうは思わないらしい。女子をはじめ男子に話しかけられることが多くなり可愛いと言ってもらえる機会も増えた。愛大のアドバイスで投稿用の映像を撮る時だけメイクするようにしているからだろうか。その方がサイト内でも目立って最後まで曲を聴いてもらえる確率が高くなるらしい。

 もちろん可愛いと言われるのは嬉しかったけどどれだけ褒められてもあまり信じなかった。モデルみたく綺麗な愛大や人望の厚い空のそばにいるから後光効果で私まで良く見られるだけなんだろうと思ったし、バンド活動に注ぐ熱に比べたら自分を飾ることには力を入れていない。

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