空を祈る紙ヒコーキ
エピローグ


 涼と出会った瞬間から、今日のような日が来ることを願っていた気がする。

 ライブの最後、全ての曲を演奏し終えた俺達は観客に向けたくさんの紙ヒコーキを飛ばした。それぞれの夢と願いを乗せて。


 涼は自分の弱さや汚さを表現することにためらいを持たないタイプだった。私性格悪いからどうして空に好かれたのか分からない。彼女は後々そう言っていた。ありのまま生きる彼女が俺の目には魅力的に映った。この世界に存在するどんな美しい景色よりもずっと。


 プレジャーディレクションの初ライブは全国から大きな反響を得、今では動画の再生回数がものすごいことになっている。テレビはすごいんだなと、普段スマホやパソコンでしか情報を集めない俺は初めてその影響力の大きさを知った。

 テレビに映ったことで愛大や涼は心ない同級生から過去の汚点をネットの掲示板に暴露され、そのせいで学校でも一部の人から悪口を言われていたけど二人は全然気にしていなかった。それどころか、こんなのは序の口だと言わんばかりに二人はプロのアーティストを目指すことに決めた。

 ライブ中、俺達メンバーと観客の心がひとつになるあの瞬間。他では味わえないメンバー同士の一体感と高揚感。俺と愛大はすでに経験済みだったけど、肌で感じるあの快感と達成感が涼にもクセになったらしく、今度こそ心からバンド経験者に共感したと言っていた。

 少しテレビで紹介されたからといって簡単に成功できるほどプロへの道は甘くない。涼もそれは分かっているようで、有名国立大学へ行きながらそれなりの職につくことも視野に入れつつ歌い手を目指すそうだ。涼には俺を助けてもらった恩があると言い、父さんも彼女の進路を快く応援した。

「有名人の兼業なんて当たり前だからね。やるからにはどっちも本気でやるよ! 私にやれないことはないっ」

 元からプライドの高い子だったけど最近は良い意味でそれが増長している。愛大とも仲が良いしいいことだ。彼女達の笑顔や笑い声は俺にとって何よりの清涼剤だ。
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