苦しくて、愛おしくて
春。
桜並木の通りは、今年も満開の花を咲かせる。
「2人とも早くそこ立って立って」
登校しようとした私を捕まえたお母さんは、急ぎ足で私と凛を表札の前に立たせる。
「……」
「なんだよ、まだ拗ねてんの?」
凛は真新しいブレザーに身を包みながら、私の顔を覗き込む。
そりゃ、拗ねたくもなるよ。
ふいっと、返事をしないでそっぽを向く。
「まさか凛くんも奈央と“同じ”高校に進学するなんてねえ〜〜」
ほんと。
どうして凛は、よりによって私が通う高校を選んだんだろうか。
「あそこならギリギリまで寝てられるし」
「でも凛くん頭良かったわよね?」
「ぜんぜん」
嘘つけ。本当はそこそこ頭いいくせに。
そういう謙遜すら今は腹立たしくて、ジロリと凛を睨みあげる。
「あらやだ時間なくなっちゃうよね。ほら奈央こっち向いて!」
お母さんの急かすような声も無視。