楽園
再会
それから3年の月日が流れた。

華と健太郎は事故の後、
夫婦を続けて見たものの
一度信用を無くしたら元に戻るのはかなり難しくて
喧嘩が絶えなかった。

お互いに疲れ、健太郎はまた浮気を繰り返し
二人はあの事故の後
結局2年も持たずに離婚することになった。

そしてほぼ専業主婦に近かった華は一人で生きていく事になった。

華が就職するのは大変だった。
大学を出て健太郎と結婚するまでの3年だけしか社員として働いた経験無かったし年齢の事もあって仕事はなかなか決まらなかった。

その中でようやく小さな出版社に勤めることが出来た。

その出版社が作る本は以前翔琉が漫画を描いていたような成人向けの雑誌で内容はかなり刺激的だ。

華はその手の本を読んだことはさすがに無かったが
翔琉の影響でそういった本にそれほど偏見を持ってなかった。

というかやっと見つけた仕事なのに偏見を持ったらやっていけない。

社員は華の他にたった3人で
いつ仕事が無くなるかもわからないような小さな会社だった。

実は社長兼編集長は女性でなかなか魅力的なちょっと変わった人だった。
華は時々女性からの視点を編集長に求められたりする。

自分の経験を語ってると思われたりして
華はその度に恥ずかしい思いをした。

だけど働いてる人たちはとてもいい人たちで
何となく気があった。

「華ちゃん、夕方に一件原稿を取ってきて貰いたいんだけど…いいかな?」

「はい、特に予定もありませんから。」

華は住所を渡されて、その家の近くまで辿り着いたがどの家かよく分からなかった。

電話をかけてみると女の人が出た。

イラストレーターの名前はペンネームらしく男性の名前だったので少し驚いた。

家の場所を詳しく聞いてその通りに歩いて行くと古い小さな民家があって表札はかかってなかった。

「あの先程電話しました瀧澤と申しますが…」

「あ、出版社の方?
奥にいるから入って下さい。」

電話に出たのは本人ではなくて奥さんの様だった。

華が奥の部屋に入ると、絵を描いていたのはあの翔琉だった。

翔琉も華も一瞬何が起こったのか分からなかった。

「華?」

「カケ…、海藤さん?」

華は名刺を翔琉に渡した。

「瀧澤って…」

「実は去年離婚して旧姓に戻ったんです。

カケ…いや、海藤さんは結婚されたんですね。」

「あ、いや…そうじゃなくて…」

さっきの女がお茶を持ってやって来た。

「アタシはただの大学の時の友人ですよ。
翔琉がなかなかプロポーズしてくれなくて。

もしかして翔琉のお知り合いだったんですか?」

友達と聞いて華は何となくホッとした。

「えぇ、昔…隣に住んでたんです。」

「そうなの?すごい偶然ですねぇ。

でも翔琉が今描いてる絵って成人向けの男性誌に載せるんですよね?

そういうの作ってる会社に女性がいるなんて…ちょっと意外でした。

ワタシなんて恥ずかしくてまともに翔琉の絵を見ることも出来ないのに…。」

「実は編集長も女性なんですよ。」

「嘘?ビックリ!翔琉は知ってたの?」

翔琉は頷くだけであまり話さなかった。

「そろそろアタシ帰るね。この後撮影があって…
じゃあ瀧澤さん、またお会いできるといいですね。」

彼女は夏希さんと言って
料理誌の専属カメラマンだそうだ。

明るくて笑顔が素敵な人だった。

「彼女、素敵な人だね。翔琉の事が好きみたい。」

翔琉はその言葉をスルーして

「華、どうしてこんな出版社で働いてるんだ?」

と聞いた。

「こんなって…翔琉もここの仕事してるでしょ?

それに働いてみると案外面白いよ。
今まで見たことも無かったけど…これはこれで奥が深いって言うか…。
しかも翔琉にも会えたじゃない?

ウチは漫画は載せてないから翔琉には縁が無いと思ってた。」

「編集長がオレの漫画を見て絵を気に入ってくれてね。
これを描いてもらいたいって頼まれて…
オレは何でもやらないと食べていけないしね。」

「こういうのって昔で言う春画みたいだよね。」

華は昔のようにそんな絵を見て恥ずかしがったりせず
翔琉の絵を芸術作品を見るように眺めていた。

男と女の愛し合う姿が色んな形で描かれていた。

華はその絵の女の顔を見て驚いた。

男と絡み合ってる女は
昔、翔琉が描いてくれた自分に何となく似ていたからだ。

「これって…」

「参ったな。まさか華に見られるとはな…

こういう絵を描くときいつも華とのことを思い出してた。

ごめん、嫌だよな。
色んなヤツに自分を見られてる気分だよな。

何なら描き直したいけど今からじゃ時間が…」

「ううん、大丈夫。何か光栄っていうか…

うん、みんな似てるって思うかも知れないけど
きっと私だって思うのは私だけだよ。

それにすごく綺麗だもの。」

絡んでる男がどことなく翔琉に似ていたから
華は許せたのかもしれない。

華はあれから1日だって翔琉のことを忘れたことはなかった。
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