聞いてはいたものの、あれをまとめてひとつのものを作るには、よほどの手腕と胆力と、それから人望がないと無理だろう。

ゼロと仕事をするようになったクリエイターの話は聞くけれど、ディレクターやプロデューサークラスの人で、別の会社からゼロに入ったというのは聞かない。

先輩が相当慎重に、これはという人だけを選んでいる証拠だ。


あの中に、私に入れって?

想像してみたものの、まったく現実味が湧かなかった。





「以上です。私たちがご提案するのは、映像やグラフィックの美しさを通して、御社の商品のクリーンさ、品質の高さを感覚的に植えつけるという、広告の原点回帰ともいえるシリーズです」



このために制作したサンプル映像や、高価な紙を使った資料などをふんだんに盛り込んだプレゼンの終わりを、灯が締めくくった。

クライアント側は、担当者レベルの若い人から決裁権のある部長クラスの人まで、10名近くが並んで座っている。

灯は、この世界でのし上がっていく人がみんなそうであるように、プレゼンがうまい。

容姿に恵まれ、声もいい。

抑制の効いた身振りをまじえて、まっすぐ相手を見て話す姿は誠実そうで、プロデューサーという肩書から想像される軽薄さはまったくなく、初めての取引先だと、そのことに驚かれたりもする。

先方の宣伝部の男性が口を開いた。



「今回の商品は、女性も重要なターゲットです。御社のご提案で、そこは狙えていると思われますか」



明らかに私のほうを見ての発言だったので、この場にいる唯一の女性である私の声を聞きたいのだろうなと思い、要望に応えることにした。



「もちろんです。女性のことは女性に、というのが必ずしも正しいとは限りませんが、本企画においては、リサーチ会社と協力し、購買層である20代後半から30代女性へのアンケートを、このためだけに行いました」



このためだけに、というのが響いたらしく、ほお、というどよめきがあがる。

私はびっしりと資料の貼られたホワイトボードをペンで指した。



「野々原が偉そうにご説明しましたが、こちらの企画資料を作らせていただいたのは私です」



今度は笑いが弾けた。

説明のために立っていた灯が苦笑し、腕を組んで聴衆側に回る。