クールな御曹司と愛され政略結婚
と言いつつ片方を受け取ってしまう。

灯は「乾杯」と陽気に笑って一息に飲み干した。

私もつられて、数口でグラスを空にした。


せっかくなら美しくドレスを着たいので、ここ二週間ほどはひそかにお酒もハイカロリーな食べ物も控えていたのだ。

久しぶりのアルコールが、ドレス用の下着に締めつけられた胃を心地よく温めてくれる。


ホワイエのお客様たちをチャペルの中に案内する声が聞こえてきた。

いよいよだ。

交通の便と食事のおいしさ、メニューの自由度を最重要視した結果、都心でのレストランウェディングになった。

天気は文句なし、中庭でのブーケプルズも予定通りできるだろうし、バルコニーからはさんさんとお昼の日差しが差し込んでいる。

ロケで降られたことがないという晴れ男、灯の実力ここにありだ。



「じゃ、先行ってるな」

「うん」



シャンパンの影響か、もしくは彼にも"浮かれる"という心境があるのか、灯は軽い足取りで控え室を出ていった。

私も気分が上がってきた。

たとえ親の都合だろうが、きれいなドレスを着て、髪も顔もプロの手で整えてもらって、たくさんの祝福の中にいられて。

これでわくわくしない人がいる?



「それでは参りましょうか、お父様もお待ちですよ」



アテンダーさんがそっと椅子を引いてくれる。

腰まではぴたりと身体に添い、そこから美しいドレープが広がるドレスの前裾を蹴りながら立ち上がる。

部屋を出ると、新郎新婦よりよっぽど緊張した面持ちの父が立っていた。

子供じみたケンカで私たちを振り回してくれた、仕方のない父。



「孝行させてくれて、ありがとね」



皮肉を言いつつ右手を差し出すと、目をしばたたかせて腕を貸してくれる。



「きれいだよ、唯子」

「言ってみたかっただけでしょ、それ」

「よくわかったな」



ふたりでばか笑いしたら、アテンダーさんに、しーとたしなめられてしまった。
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