チャペルの扉が開かれ、祭壇の前に、天窓からの光を浴びて立つ灯が見える。

父と一歩一歩、じれったくなるほどゆっくり歩きながら、これが例の結婚式というものか、と興味深く周囲を見回した。

なにかの役に立つだろうとじっくり観察しようとしたのだけれど、ベールが邪魔で、はっきり見えない。

私の手を父から受け取った灯が、苦笑を隠しながら、「きょろきょろするな」と小声で叱ってきた。


──あなたは新婦を妻とし、病めるときも健やかなるときも、富めるときも貧しいときも、これを愛し、敬い、共に歩み、命の火のある限り、貞節を守ると誓いますか。


わあ、これを自分たちに向けて言われる日が来るとは思わなかった。

よくよく聞くと、すごいこと言っている。

これからの人生、パートナーのことだけ見つめて、死ぬまで一緒にいろよ、離れるなよ、それが結婚だ! てことだ。

灯の声がした。



「誓います」



力みのない、けどきっぱりとした、まっすぐな返事。

ただのお決まりの言葉なのに、灯の声には不思議な気負いのなさがあって、問われたので正直に答えました、としか聞こえない。


私はそのとき、それまでのどの瞬間よりも強く実感した。

指輪を買ったときより、婚姻届けを書いたときより、今朝それを区役所に提出したときより、はるかに強烈に。


──灯は、私と結婚するのだ。

これはほかでもない、灯と、私の話なのだ。


そこから急に緊張しだして、自分の返事は記憶にない。

指輪をはめようとした灯が、震えている私の手を見て、笑ったのを覚えている。


灯がベールを上げてくれたとき、私は嬉しかった。

やっと、なににも遮られることなく、灯を見られる。


私の意思を確認したかったのか、一瞬のぞき込むように目を合わせてから、灯はまぶたを閉じて、唇を重ねた。

優しく触れる、灯の唇。

自分の鼓動以外、聞こえない。


この場にいる、誰が知っているだろう。

これが私と灯の、10年ぶり二度目のキスだということを。