クールな御曹司と愛され政略結婚
最初の夜
「疲れた」

「疲れたね…」



式と披露宴と二次会と三次会を終えて、新居であるマンションにたどり着いたのは、もう深夜というより明け方に近い頃だった。

三次会以降は、私は自前の楽なワンピース、灯はスーツに着替えていたため、お色直しのドレスを持ち歩く必要があり、意外に大荷物なのもこたえる。

ウェディングドレスと一緒にレンタルしようとしたものの、いいカラードレスが見つからず、お色直し用にはシックなゴールドのドレスを自分で探して買ったのだ。

今後の人生で使う場面はないだろうから、売ろうかな、とか考えつつ、何度か荷物を運びに訪れていた2LDKのマンションのライトをつけた。



「荷物、全部こっちに移した?」

「いや、あと何度か往復しないとダメだな」

「私も」



家具の始末もしなきゃいけないし、今月いっぱいは行ったり来たりだろう。

慣れない間取りに若干手間取りながら寝室に行き、とりあえず荷物を下ろした。

とはいえほとんどを持ってくれていたのは灯だ。

その灯もくたくたらしく、クローゼットの前でネクタイを外しながら、「コーヒー飲みたい」と独り言みたいにつぶやいている。



「いれてあげる」



食器類は全部持ってきたから、ドリッパーはあるはずだ。

今度荷物を運ぶときは、忘れずにコーヒーメーカーを持ってこよう。

ドリップケトルは持ってきていたっけ、と記憶を探りながらキッチンへ向かった。


賃貸の1Kと比べると、ふたり住まいの部屋はなにもかもがきちんとした造りで、"家庭"らしくて贅沢だ。

IHのコンロは2つ口があるし、グリルもあるし、シンクは大きいし人工大理石の調理台はたっぷりと広さがある。

そういえば、絶対にこれは移住直後に使うだろうとケトルを買っておいたのを思い出し、同じく用意しておいた豆で、ふたりぶんのコーヒーを入れた。


灯も私も、勧められたお酒を一度も捨てることなく飲み干して回ったので、相当な量のアルコールを摂取しており、結果喉が渇いている。

ポットとカップをダイニングテーブルに並べ、ピアスなどを外しに洗面所に向かい、ナチュラルな木目の引き戸を開けたところで、私は絶叫した。
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