クールな御曹司と愛され政略結婚
当然ながら私も面識があり、高校時代はかなり仲よくしてもらっていた。

けれど数年前から、ぱたっと連絡が取れなくなったらしい。

結婚式にも灯は呼びたがっていて、でも誰に聞いても連絡先がつかめないので、呼びようがなかった。



『俺の立つ瀬が…』



応接室での再会ののち、精神的ダメージからデスクにも戻れず、灯は社内に点在するスタンドテーブルに突っ伏すようにして頭を抱えていた。

一樹先輩が突然音信不通になるまでは、本当に仲のいい友人だったのだ。

灯とは部活も違ったし、つるむ仲間のタイプも違ったし、しょっちゅう一緒にいる、というつきあいにも見えなかったんだけれど。



『なんていうか、なにか面白いことやるときは絶対あいつと、みたいなさ』

『悪友?』

『そんな感じかな』

『たとえばなにしたの』



灯は口を開きかけておいて、『教えない』と急に態度をひるがえした。

しらじらしく目をそらす姿を凝視し、追及しないであげることにする。

遊び仲間にも女の子にも困らなかった男の子がしていた悪さなんて、女房は聞かないほうがいいに違いない、たぶん。

灯は、業界を暗躍しているゼロの代表が、よりによって自分の友人だったことに責任を感じていて、またそれで友情が壊れるでもなく『あいつなら、確かにあれくらいのことできる』なんていう妙なリスペクトがあるものだから、罪悪感で板挟みなのだ。



「相変わらず、棒並みにまっすぐだね」

「正義感が強いって言ってあげて」

「そういうところに惚れたの?」



今度は私が口をつぐんだ。

違うよ。

そういうところにつけ込んだの。



「夫婦生活はうまくいってる?」



先輩はそつなく話題を変えてきた。

しかしその話題は、今の私たちには完全に地雷だ。

あなたがたの会社のおかげで、灯が家に帰っても仕事モードから全然戻ってこられなくなっちゃって、結果、私は家でも完全にアシスタントなんですけど!

寝る時間も起きる時間もすれ違いが続き、当然なにも進展していない。

そしてそんな状態のまま、灯は昨日LAへと飛び立った。
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