クールな御曹司と愛され政略結婚
おほほ、うふふ、と笑い合っていると、「なに嫁姑ごっこやってんだ」と灯があきれ顔で私たちを眺めた。

灯は一人っ子なので、おばさんは昔から、娘が欲しかったと言って私と姉をかわいがってくれた。

うちの母も同様で、いまだに灯を自分の息子のように溺愛している。



「後で買い物に行くわ、荷物持ちよろしくね、灯」

「それなら俺と唯で行くよ、いるもの書いといてくれたら」

「唯ちゃんが行くなら私も行くわよ。娘と買い物するの夢だったんだもの」

「あ、そう? じゃあ行ってらっしゃい」

「あんたも行くのよ!」



頭を叩かれて、「いてっ」と灯が声を上げた。



「まさか家でもそうやってふんぞり返ってるんじゃないでしょうね。唯ちゃんだって忙しいんだから、あんたも自分のことと家のこと、きちんとやるのよ」

「やってるよ、それなりに」

「お嫁さんを大事にしない男は、器が知れるわよ」

「寝室で夫をないがしろにする妻は?」



きょとんとしているおばさんの前で、私は灯のわき腹に拳を突き入れた。





「根に持ちすぎじゃない!?」

「それだけのことをしたんだと反省しろ」



デパ地下の生鮮食品売り場で買い物しながら、文句を言い合う。

おばさんはお中元を一件送り忘れていたとかで、贈答品のフロアを見に行った。


メモを片手に、かごを持った灯と売り場を歩く。

いばれることじゃないけれど、もしかしたら、今がこれまでで一番夫婦っぽいひとときかもしれない。

ちなみにゆうべは、一樹先輩としこたま飲んで、ふたりとも帰って即寝た。



「ししとう、しいたけ、青じそ…うわー、今から楽しみ」

「青じそあった」

「天ぷらの具材で、なにが一番好き?」



灯が宙を見つめて考え込む。
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