入り口をしばらく探し、廃墟の壁にしか見えなかったさびた金属の板の隅っこにドアノブを見つけ、引き開けてみると、中はまさかの異空間だった。

落ち着いた照明に、つややかな木の床。

ダークウッドのバーカウンター、くつろげそうな黒革のソファ席。

カップルで過ごすのにぴったりな、カウチ席。

気軽に飲めそうなスツール席。


全部で20席もないだろう、こぢんまりとした、まさに隠れ家だ。

お客さんの入りは、半分くらい。

抑えたBGMの中、カウンターの向こうにいるマスターらしき男性が、私に微笑みかけた。



「いらっしゃい」



その声に反応し、奥の隅のスツールに並んで座っていた男女が顔を上げた。

男性のほうが、私を認めてはっと腰を浮かす。

私は、灯に親しげに寄り添っていた女性のほうに視線を動かした。


じっくり確かめなくてもわかる。

これだけの空間の中にいても、真っ先に人の目を吸いつける、華やかな顔立ちと、にじみ出る香気のような"勝ち組"のオーラ。

いつだって、どこにいたって彼女は、そんなものに包まれていた。


カクテルグラスをマドラーで混ぜていた彼女が、ばさっと音がしそうなまつげを動かして、瞬きをした。

それだけで、こっちはざわっと肌が粟立つような感覚に襲われる。

身内で、女でこれなんだから、男の人なんて、太刀打ちできないだろう。


決してぱっちり大きいわけじゃないのに、不思議と印象的な瞳が微笑んだ。



「唯子じゃないか」



心から歓迎してくれていることがわかる声。

その横にいる灯の態度とは、対照的に。



「お姉ちゃん…」



スツールから足を降ろした灯が、私と姉の間で立ち位置を決めかねている。

私はまた、昔を思い出した。

ばつの悪そうな、気まずそうな、なんでお前がここにいるんだよ、ってこちらを責めてもいるような、灯の表情。


せっかくなんとかつなぎ合わせて、見ないふりをしていた胸の奥のひび割れが、再び生々しく傷口を開けて。

その下から、どろりとした黒いものが染み出してくるのを感じた。