恋色流星群

3#倫side

 


カウンターに携帯を置いて、両手で顔を覆う。
覗く、翔の柔らかい瞳に。

一瞬、どっちなのか分からなくなった。




翔「理沙子、ニューヨーク来るって。」


バカラのグラスは、すっかり水滴に包まれて。
翔の手が触れる前に、そっと鞠子が取り上げて。
ハンカチで周りを拭った。




翔「いつか遊びに行くから、それまでに会社デカくしとけってさ。」


鞠子「おお!フラれたか!」

「さすが。笑」

翔「さすがじゃねぇよ!
どうすんだよ、うちの社は。」


鞠子「言えばよかったじゃん、理沙じゃないとダメだとか。
さっきまで散々、意気込んでたくせに。」

翔「鞠子さん引かない?
振ろうと決めて電話した男から、そんな粘られたら。」

鞠子「いや、私は引くけどさ。」


呻き声、のような。
大きな溜息をつきながら、翔はそのまま突っ伏した。



鞠子「ねぇねぇ、私の勝ちってことでいい?」

嬉しそうに囁く鞠子に頷くと、小さくガッツポーズをして奥に消えて行く。


「誰か紹介しようか?
ブランドミューズになるモデルがいるんだろ?
うちも、モデルはいい子が揃ってるぞ。」



ピクリともしない、広く薄い背中に。



鞠子「分かってたくせに。
だから、オープンチケットなんかにしたんじゃないの。」



いつも嬉しそうにじゃれていた理沙が浮かんだ。

もう二度と。
あの景色は、来ない。



鞠子「はいはい、翔くん。
うちの娘がすみませんね~。
倫くんがピンドン入れてくれたから、まぁ今日は飲もうよ♡」



鞠子が力強くカウンターに置くグラスにも。
全く顔を、上げようとしない。


「あれ、ロゼだった?
白じゃなかったか?笑」


鞠子「やだー、倫くん物忘れ?怖い怖い。」


お前のほうが怖いよ、と笑うと。


ムクリ、と起き上がった翔の表情は。
思っていたよりもずっと、血の気が無くて。

逆に、笑えた。



翔「決めた、アジア進出は延期だ。」

鞠子「延期~?せっかくいろいろ決めてたのに?」

翔「今更、理沙子以外は合わない。
しばらくはニューヨーク限定で動くわ。」

鞠子「しばらく?往生際悪いなぁ。」

翔「ジジイになるまで、待ってやる。」

 

鞠子は、面白そうに。
だけど、ひどく柔らかい仕草でグラスに泡を注いでいく。 

 

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