恋色流星群

19#陽斗side



ふいに触れた彼女の肩は、驚くほど冷たくて。

情けないことに、俺はそこから意識が飛んだ。


「早く終わらせて、彼女を水から上げなければ」という焦りが、ますます動きを固く喉を締めた。




台本を忘れろということは、最終手段。
何よりもタイムリミットが迫っている証拠。

演技のできない俺を諦めて、映像を演技風にうまくつなぎ合わせるということだから。

ここまで堪えて冷え切った彼女に、謝っても謝りきれない。






『要さん。』



彼女の声で、我にかえる。

メイク直しで血色を取り戻していたが、透き通りすぎた肌の白さが、彼女の限界を表していた。


『私、要さんが歌う人・・・ボーカル?さんだって、知らなかったんです。』


思いもしなかった彼女の言葉に。
ああ、カメラは止まってたんだと思い出す。



『こっちに来る機内で初めて曲を聴いて。そこからは、もう、カッケー!!って。笑』



俺、あの夜ボーカルだって言ったのにな。笑
彼女の無邪気な様子は、胸を温かくした。





『だから、私。今日のことは絶対忘れません。』

「え?」


『ファンになったから、要さんの。
歌う姿、目に焼き付けます。』








突風に

吹かれた気がした。



自分は、なぜここにいるのか

なぜここまで来れたのか

彼女の言葉に頭を殴られ、思い出す。









凍った心が息を吹き返したように。








君はいつも。

なんて簡単に、俺を生かす。









優しく笑う彼女の左手が、俺の頬に触れる。


俺は、少しでも熱が移れと、右頬を擦り寄せる。




やっと触れられた。

温かな感情が、凍えた胸を満たしていく。







微かに耳に届くイントロは、幻覚か現実か分からないけれど。



歌う。

彼女の目だけを見て、そらさずに。


今日でも明日でも、歌えなくなる時が来ても。





最後にこの声を届けたいのは、君だと感じながら。
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