恋色流星群

12


閉まった扉の前で。

私はまだ、抱きしめられたまま。



胸から伝わる、航大の体温と。頭を包む大きな手。




だけど。

そもそも、なんでこんなことに?
なんで私、抱きしめられてるの??





『・・・ちょっとっ・・・!』


たくさんの疑問詞に息がつまり、くっと両手に力を入れて胸を押すと。

意外にもあっさり、体は離れた。



『ねぇ、一体なんなの・・・』


いい加減、文句の一つでも言ってやろうと。

見上げた男の顔は、期待外れにひどく優しくて。ケンカ腰に用意した言葉を失う。




「ほんとに、ちょっと熱いぞ。熱測ったほうがいいかも。」


甘い手つきで、汗に濡れた私の前髪を優しく分ける。
おでこに触れた手に、カッと上がる自分の体温を感じて。



『し、シャワー浴びてくる・・・!』


その手をはらうようにして、バスルームへ逃げ込んだ。









バスルームの鏡に映るのは、涙目で頬の赤い自分。

部屋が暗くてよかった。こんな顔見られたくなかった。


蛇口をひねると、大きな音を立てて流れ出したシャワーに。慌てたように飛び込む。






冷やしたい、体も頭も。

なんだか、昨日から変なことばかりが起きてる。






バスルームにローズの香りが充満する。

つい、癖でハワイにも連れてきてしまった。そしてこんなときにも、使ってしまった。

人間の習慣の怖さに、ため息が出る。






ロクシタンのローズシャワージェル。

もちろん、航大からもらったものはとうの昔に使いきってるわけだけど。

あれから気に入って買い続けてるなんて。乙女っぽいこと、知られたくない・・・。汗


バスルームから出る頃には、帰ってくれてたらいいのに。
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