黒胡椒もお砂糖も

3、つい、のせられて



 社会生活に復帰した私は、周囲に違和感を感じていた。

 自分の世界はあれだけ見事に崩壊したのに、現実世界は絶え間なく動き続けている、そんな当たり前のことが受け入れられなかった。

 だから、壁を作ったのだ。

 透明だけれど、強力で分厚い壁を。

 気安い仲間、同僚や友達。それすらもひたすらに面倒臭くて。別になくても困らない。今までの私を説明するのも面倒臭い。一々傷口を開けるようなその行為は、そもそもしたいはずがない。だから、話せる人などなくてもいいと。

 今はまだ周囲に溶け込むなんて出来ない。まだ、私の心臓の傷は完治などしない。

 当分一人でいい。

 そう決めて、新しい会社では壁を作り、周りを拒絶してきた。だけど――――――

「・・・どうしてこうなっちゃったんだろうか・・・」

 私は頭を頬杖をついた格好で、11月の陽光差し込むお洒落なカフェで、座っていた。

 私をここに連れてきたのは例の同僚、平林さん。愛嬌爆発の、我が社が誇るエリート営業の彼だ。

 彼は今電話に立っていて、私は首を傾げながら座り、彼が戻るのを待っているのだ。

 えーっと・・・だから、そうよね。

 暇なのもあって今朝の事を思い出す。


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