私、今から詐欺師になります
私、出て行けません
 



 不愉快だ。

 秀行は読んでいた資料を手にしたまま、渋い顔をする。

 なんで、俺があいつらに見送られねばならんのだ。

 まだ仕事があるからと、茅野は穂積の会社に残り、彼らに見送られる形で、秀行はそこを後にした。

 あれじゃあ、まるで、俺ひとりが部外者みたいじゃないか。

 今になって腹が立って来たな、と思う。

 今日は帰ったら、茅野を散々いじめてやる。

 部屋の隅にうずくまって、頭を抱え、
『やめてくださいー』
と言う茅野を思い浮かべ、吹き出した。

 あの小さな……いや、サイズ的にはそう小さくはないのだが。

 キャラ的に小さな生き物のような茅野は、そうやって、やられキャラっぽく泣いて見せたあとで、去ろうとするこちらのスリッパの後ろをいきなり踏んできたりする。

 振り返ると、脱兎の如く逃げて、部屋に隠れようとするのだが、もちろん、茅野の足で自分に敵うわけもない。

 怒っていたはずなのに、茅野の数々の間抜けな行いを思い出し、笑ってしまった。
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