強引専務の甘い手ほどき

勤務のあとで。

まあ、当然のようにシャツは渡してもらえなかった。
クリーニングさせてもらえた方が気がラクだ。
ウロウロと、謝る機会をうかがうけど、
専務も石神さんは忙しく、足早に通り過ぎていく。
朝のコーヒーを持っていく時に話しかけようとするけど、
難しい顔で、パソコンを睨んでいるので、
声をかけづらい。

もう、3日も経ってしまった。
はあー。溜息が出る。

今日も、私の退社時間に、2人は何事か言い合いながら専務室に入って行く。
私はコーヒーを淹れることにして、給湯室に立った。
コーヒーを2人分淹れ、専務室に運ぶ。
まだ、専務と、石神さんは言い合っている。
私は声をかけるのを諦め応接セットにコーヒーを置き、
そっと退室しようとすると、
「待て。西島。」と専務が声をかける。
私が立ち止まると、
「おまえ、俺になんか言いたいことがあるのか?
どうも、通り過ぎるたびに何か言いたそうに見えて、
気になる。」と機嫌の悪い声を出すので、
「あ、あのっ、シャツを汚したお詫びはどうしたら…」と言い淀むと、
「…シャツ?」と専務は考え込み、石神さんが
「口紅のヤツだろ」と笑った。
「この通りキサラギは覚えてないから、気にしなくていいんだけど、
気になるんなら、ご飯でも食べてくれば。」と言って、専務の顔を見た。

「そういえば、昼メシ食ってなかったな。」と専務はつぶやき、
「メシいくか。」と急に立ち上がった。
「専務をお連れできるようなレストランは知りません!」と大声が出たけど、
「おまえが行くところでいいよ。拓也も来るか?」と専務が聞いたら、
「邪魔する気はない。今日は解散。
コーヒーは俺が飲んでおくよ。」と石神さんは笑って、手を振った。

ええ?
専務と2人?!
それにどこに行ったらいいの?
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