イジワル御曹司のギャップに参ってます!
プロローグ

彼の指が、唇が、私の身体に触れたとき。
私の全身は麻痺したかのように動けなくて、ただ不自然に短い呼吸と、瞬きを忘れた瞳で、目の前にある彼の髪の先をじっと見つめていた。


つい数時間前までの彼は、無機質なレンズに瞳を隠し、冷徹な言葉を繰り出しては私を苛々させていたはずだ。
二人のコミュニケーションといえば、嫌悪感丸出しの嫌味の応酬や、色気も素っ気もない仕事上の会話だけ。

そこからは想像もつかないほどの甘く濃厚なやり取りが、今、目の前でなされている。


困惑する私を見て、眼鏡を外して形の良い瞳をあらわにした彼が、ニヤリと意地悪く微笑んだ。


どうしてこんなことになってしまったのか、私にも分からない。

だって、彼は私が嫌いだし、

私も彼が、大嫌いだ。
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