イジワル御曹司のギャップに参ってます!
第四章 私と彼の初めての共同作業・前編
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「東京ラブランドパークって知ってます?
あーいう感じの、ちょっとキラキラしてて、クラクラして、でも深くてギュンギュンくる感じがいいんだよなぁっ!」

クライアントである化粧品メーカー『ジュエルコスメ』の広報マネージャー相模さん――見たところ四十手前くらいの男性――が、瞳を輝かせながら言った。

私と氷川は彼の話を聞きながら、顔を見合わせる。

(ねぇ、これってどういう意味!? わけ分かんないんだけど)

(私に聞かないでください。直感的なものはあなたの専門分野でしょう)

(だってこの人の話、抽象的過ぎて意味不明なんだけど)

(それを紐解いて具現化するのがあなたの仕事でしょう。しっかりしてください)

(んなこと言ったって、キラキラ、クラクラ、ギュンギュンとか言われたって全然伝わってこないよ!!)

通じ合えない私と氷川だけれど、今日ばかりは心が通った気がした。




「ってことがあったんだけど、どう思う?」

自社の会議室。
クライアントとの打ち合わせ結果から企画の詳細を掘り下げるべく、私たちは内部ミーティングを開くことにした。
集められたメンバーは、実際に打ち合わせに参加した私と氷川。そして私たちをそれぞれサポートする後輩がひとりづつ。
私のサポート役は言わずと知れた市ヶ谷くん。
氷川のサポート役には、彼のひとつ後輩の青山さんが選ばれた。

私と氷川は、クライアントから出た要望を、クライアントの言葉通り、自社で待機していた市ヶ谷くんと青山さんに伝えたのだが――

「……もう一回言ってもらえますか?」

「キラキラ、クラクラ、深くて、ギュンギュン」

「……下ネタじゃないですよね?」

「市ヶ谷くん。真面目に」

「……すみません」

言ってみたところでやはり理解不能で、私たちは途方に暮れていた。
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