ラティアの月光宝花

哀しみのセシーリア

*****

数日後。

「セシーリア!」

「シーグル!どうしたの?!」

神殿の先にある花畑で薔薇を摘んでいたセシーリアは、眼に涙を溜めて荒い息を繰り返すシーグルを驚いて見つめた。

「兄さん達がっ……!」

兄さんという言葉に些かドキリとしたが、泣いているシーグルの話を聞かない訳にいかず、セシーリアはハサミを下ろすとシーグルに歩み寄った。

「オリビエ達がどうしたの?」

達、というからには恐らくそこにはアンリオンやマルケルスもいるのだろう。

「今日の午後、街に行くのに俺を連れていってくれないんだ」

「オリビエ達が、街に?」

シーグルは頷きながら右腕で涙を拭った。

「お前にはまだ早いって。ひどいよ」

……酒場にでも行くのだろうか。

ラティア帝国は細かな規定があるが、男なら18歳から軽い酒に限り飲酒可能である。

セシーリアは、悔しそうに唇を噛むシーグルをなんと慰めてやるべきか考えあぐねた。

もしもオリビエ達が酒場に行くのだとしたら、シーグルを連れていく訳にはいかないからだ。

「俺だって、街は好きなのに」

確かにラティア帝国の王都であるエルフの都は華やかで美しい都である。

城下に広がる建物は全て白い壁で統一され、その屋根は淡く美しい黄金色である。

その上、街の至るところにラティアの国花である薔薇が飾り付けられていて、それが尚更人々の心を浮き足立たせるのだった。
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