los episodios de suyos
5.amor secreto
 エストレジャ家の主人に雇われたのは、今から約二年前。秘書の端くれとして小さな会社の社長の右腕として働いていたのを評価して頂き、いわゆる引き抜きだった。

 マフィアにスカウトされたのだと分かったときは驚いてしまったが、彼らローサの噂は、昔から色々聞いて知っていた。闇社会では珍しい、町の自警団のような集団だ、と。事件の加害者は、その手のニュースには敏感になるものなのだ。



『ガルシア、家族の欄が空欄だが?』

『……ええ、事情がありまして。』



 ――数年前に、家族が殺された。深夜の自宅に何者かが侵入し、両親と幼い妹を刺して、金品を奪って逃走した。お手洗いに行って寝室から離れていた自分だけが、唯一生き残ったのだった。

 旦那様は、一人暮らしだった自分を、すぐに屋敷に住まわせてくれた。“部屋は沢山あるから気にする必要はない”と言って、書物が好きなことが分かると、旦那様の書斎への入室も特別に許可して下さった。こんな人達がマフィアなのだとは、にわかに信じ難かった。



『お前には、娘の教育係をしてもらおうと思っている。実は、もうすぐ引退を考えていてな。ボスにふさわしい立ち振る舞いは私達が教えてきたが、その他のことをサポートしてやって欲しい。』

『大切なお嬢様のお世話をわたくしに、ですか?』

『あぁ。お前の活躍を聞いて、是非未来(みくる)の世話を頼みたいと思ってな。娘は、スペインと日本のハーフだ。年頃で、難しい部分もあるかもしれんが、仲良くしてやってくれ。勿論、教育はしっかり頼むぞ。』



 旦那様と、チラリとお目にかかった奥様の娘なのだから、整った顔なのだろうということは予想できた。それ以外のことは、これから知っていくしかない。

 高い評価をされているのは、素直に嬉しかった。だが、それと同時に、重い重圧がのしかかってくる。緊張と不安を胸に纏いながら、旦那様の後をついていく、長い廊下の途中。スーツをこんなに着心地が悪いと思ったのは、生まれて初めてだった。
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