僕らの空は群青色
昔話



これから僕が書き残すのは、渡の口から聞いた彼の過去。時々、僕の推察も混ぜるけれど、たぶん邪魔にはならないだろうと思う。





一九八二年八月、東京は江古田で渡は生まれた。渡が十歳の時に父親が病死した。癌だった。

母の落胆はひどく、他に兄弟のなかった渡は、母親を守るのは自分だと強く思ったそうだ。わずか十歳の渡は父の墓前に母を守り助けていくことを誓った。

しかし、父の死から一年も経たないうちに、母は渡を連れて再婚した。
相手は石神井の公園近くに住む開業医で近頃前妻との離婚が成立したばかりだという。前妻との間に中学一年生になる娘がいた。

渡はまず母に失望した。
子どもの目にも母が死んだ父を愛していたのは明らかだった。彼女は父がいなければ何もできないほど父に依存していたはずだった。
しかし父の死後、あっさり石神井の医者の後妻に収まってしまった。再婚の際、母親は渡に何の相談もしなかったという。子どもに難しい話をしても仕方ないと思ったようだ。渡は反対する機会すら奪われ、いきなり新しい家と新しい父親、ふたつ年上の義姉を与えられた。

裏切りだ、渡はそう感じた。
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